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PRODUCTION NOTE

ボカロ楽曲がスクリーンへ進出…時代を象徴する作品に!

動画投稿サイト「ニコニコ動画」から人気に火が付いたボーカロイド曲「桜ノ雨」。
“泣ける卒業ソング”としてもはや中高生の間で卒業シーズンの定番曲となっており、オリジナル小説もヒットしていた本作だが、さらなるメディアミックスとしてついに実写映画化へ。
総合プロデューサーの永森裕二は、「『ボカロ楽曲』→『書籍』→『映画』という展開はかつてなく、映画界においても面白い試みになりそうだな、と思いました。そして、この楽曲が持つ圧倒的な“歌の力”を作品内で最大限リアルに表現する事で、熱く胸に響く感動作にできる!という気持ちから企画をスタートさせたんです」と企画を立ち上げた背景を語る。
作曲者であり小説版の原案も担当したhalyosy氏より映画化の快諾を得て、プロジェクトが始動。制作は昨夏の大ヒット作『バケモノの子』を手掛けたデジタル・フロンティア、脚本は『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』などジュブナイル作品を多く執筆している小林弘利、そして、女子高生の集団妊娠を題材にしたデビュー作『リュウグウノツカイ』で注目を集めたウエダアツシを監督に据え、「桜ノ雨」が“感動の映像作品”として生まれ変わる第一歩が踏み出された。

繊細な表情が光る山本舞香を映画初主演に抜擢

本作では17歳という多感な時期を迎えた、内気で自己主張が苦手な主人公・未来の成長物語にスポットを当て、彼女の純粋な気持ちや繊細な心の変化をメインに置いたストーリーで構成されることとなった。引っ込み思案な10代の少女の成長を見事に演じきることができる女優としてプロデューサーから名前が挙がったのが、若手女優の中で現在頭角を現している山本舞香。
これまで活発な役どころを務めることが多かった山本本人は、オファーがあった当初、「未来の内気な雰囲気を自分が演じられるんだろうかってすごく不安でした」と語るも、プロデューサー陣は別の見解を持っていた。
「演技を拝見すると元気な中にも表情に繊細さがあったんですよ。その心とお芝居の機微が未来役にはピッタリだなって」(プロデューサー松村傑)

こうして山本の映画初主演が決まった。そして、未来が密かに恋心を寄せる先輩・ハル役には新進気鋭の若手俳優、浅香航大を起用。
「部員みんなが憧れるような凛々しい方、というのはもちろん、役柄の設定上、ピアノを弾ける俳優さんでないといけなかったので、小さい頃にピアノを習っていたという浅香くんにどの程度できるのかということを確認した上で、依頼をさせてもらいました」(プロデューサー海老沼泰弘)
この主演二人にメインキャストの広田亮平、久松郁実、三浦透子、井上由貴といった若手有望株から田畑智子、奥貫薫らベテランまで配役が決定。だが、“合唱”がテーマの本作だけに、大変なのはここからだった。

猛特訓&クライマックス撮影で培った団結力

クランクイン2ヶ月前から合唱指導の相澤圭介の下、合唱パートの特訓が急ピッチで始まる。メインキャストを含むほとんどの演者は合唱の経験がなく、本当にゼロから歌声を作っていかなくてはいけない。それに遅れること1ヶ月、部長役でピアノ伴奏を務める浅香が合流。浅香も現役でピアノを弾いているわけではなく、本編に登場する楽曲アレンジの難易度も非常に高いものだった。
こうした事情からスタッフは「部分的な代役吹き替えは仕方ない」と考えていたが、浅香を始めキャスト陣は忙しいスケジュールの合間を縫って猛練習に励み、着々と合唱を形にしていく。しかし、さらなる想定外の事態が起こる。
それは、全体でも2週間弱という過密な撮影スケジュールの中、会場の都合でどうしても撮影序盤である2日目にクライマックスのコンクールシーンを撮らなくてはならない、というものだった。しかも、12時間という制約の中、その日の撮影分量は合唱シーンを含め、カット数にして約150カットにも及ぶ。
「僕は最後まで反対してたんですけどね(笑)」と、監督のウエダアツシが振り返るほど、当日はまさに修羅場のような撮影だったという。
「でも、そんな条件の中、演者の皆さんは予想の遥か上を行く合唱を披露してくれて、本当に感動しちゃいました」(前出、海老沼泰弘)

これも多忙の中、演者全員が作品を成功させるべく猛特訓をした成果。この時には部員による合唱も、浅香のピアノ伴奏も、実際にコンクールへ出場してもおかしくないほどのレベルに達していた。
この山場を見事乗り切ったことで劇中の合唱部同様、心がひとつとなったキャストとスタッフの関係性は、その後のスケジュールをこなす上で大きなプラスとなる。特に主演の山本のリーダーシップは目を見張るものがあったようだ。
「年齢的には最年少でも、撮影の合間や休憩時間に他の演者さんに声を掛けにいったりして、すっかり座長でした。初主演だから自分のことで頭がいっぱいになってもおかしくないはずなのに、自分が揺らぐと現場に悪影響だって無意識にわかってたんでしょうね。そういう意味でも、本当にスター性があるなと」(前出、松村傑)

演技面も、得意のアクションを封印したにもかかわらず、ポテンシャルを存分に見せつけた主演女優に、各スタッフは賛辞を惜しまない。
そして、山本だけでなく、生徒一人ひとりが非常に個性的で、観る人の高校生活に置き換えができるのも本作の楽しみ方のひとつと言えるだろう。halyosy氏いわく、「『桜ノ雨』は別れの曲ではなく、再会を約束する曲」であり、映画版「桜ノ雨」も、まさにそのことがみずみずしい学園生活とともに描かれている。 3月という卒業シーズンに封切りとなる新しくも懐かしい青春群像劇が、迫力満点の合唱とともに観る者の胸を打つ。現役の中高生はもちろん、それが過去となった世代にも十二分に感情移入できる、そんな普遍的なノスタルジーを包み込み、「桜ノ雨」の新章がここに完成した。

取材・文/武松佑季